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カスタマーハラスメント対策・職場環境改善・人を大切にする経営

カスハラ対策は経営を強くする|2026年義務化と中小企業が始める5つの実践

社員を守ることは、会社を強くすること。

― カスハラ対策を、義務から経営の力へ ―

「お客様の言うことだから、仕方がない」

その一言で、現場の社員に無理をさせていないでしょうか。

お客様から厳しい指摘を受けることは、企業活動において決して珍しいことではありません。

もちろん、正当なクレームは大切です。

製品の不具合、サービスへの不満、対応の遅れ。こうした声には、会社を改善するヒントが隠されています。

しかし、だからといって、すべての要求を受け入れなければならないわけではありません。

大声で怒鳴られる。人格を否定される。何時間も拘束される。契約にない対応を繰り返し強要される。

それでも社員が「自分が我慢すればいい」と思ってしまう。

私は、そこに大きな経営課題があると考えています。

カスタマーハラスメント対策の本質は、お客様を敵にすることではありません。社員を一人にせず、正当な声には誠実に向き合い、不当な言動には組織として対応することです。

そして、その仕組みづくりは、会社を強くすることにもつながります。

2026年10月、カスハラ対策が義務化されました

2026年10月1日から、改正労働施策総合推進法に基づき、カスタマーハラスメントを防止するための措置が事業主の義務となりました。

対象となるのは大企業だけではありません。

労働者を雇用するすべての事業主が対象です。

厚生労働省の指針では、カスタマーハラスメントを、次の3つの要素をすべて満たすものとしています。

  1. 顧客や取引先などの言動であること
  2. 社会通念上許容される範囲を超えた言動であること
  3. その言動によって労働者の就業環境が害されること

例えば、暴言や脅迫、長時間の拘束、執拗な要求、契約内容を著しく超える要求などが該当する可能性があります。

製造業においても、取引先からの過度な要求や威圧的な言動は無関係ではありません。

一方で、重要なのは、通常のクレームとカスハラを混同しないことです。

正当な改善要求には誠実に対応する。

不当な言動には毅然と対応する。

この両立が、企業に求められています。

カスハラを放置すると、会社は何を失うのか

厚生労働省の令和5年度「職場のハラスメントに関する実態調査」では、従業員30人以上の企業を対象とした調査で、過去3年間に顧客等からの著しい迷惑行為について相談があった企業は27.9%でした。

また、労働者調査では、過去3年間に同様の行為を受けた経験がある人は10.8%でした。

カスハラは、決して一部の特殊な職場だけの問題ではありません。

では、会社がカスハラを放置すると、何が起きるのでしょうか。

まず、社員が疲弊します。

その対応に何時間も費やし、本来の業務が進まなくなります。

次に、管理職の負担が増えます。

問題が起きるたびに上司が呼び出され、ほかの仕事が後回しになります。

そして、社員の仕事に対する意欲や会社への信頼が低下する可能性があります。

場合によっては、休職や離職につながることもあるでしょう。

つまり、カスハラは単なる接客や営業の問題ではありません。

社員の健康、組織の生産性、人材の定着、そして企業の経営に関わる問題なのです。

カスハラ対策は、会社を強くするチャンスでもある

ここで、少し視点を変えてみたいと思います。

カスハラ対策を「法律が変わったから、仕方なく取り組むもの」と考える会社もあるかもしれません。

しかし、私はもっと前向きに捉えたいと思っています。

例えば、社員が困ったときに、すぐ上司に相談できる会社。

対応に迷ったら、会社として判断してくれる会社。

社員の話を聞き、一人に責任を押し付けない会社。

そのような職場では、社員も安心して仕事に取り組みやすくなります。

また、顧客対応の記録を残し、問題を振り返ることで、会社の商品やサービスに改善すべき点が見つかることもあります。

社員を守る仕組みが、仕事の品質を高める。

仕事の品質が高まることで、お客様との信頼関係も深まる。

その積み重ねが、会社の成長につながっていきます。

カスハラ対策は、単なる防衛策ではありません。

働く人を大切にしながら、経営の質を高める取り組みでもあるのです。

中小企業が取り組みたい5つの実践

では、実際に何から始めればよいのでしょうか。

1.経営者が「社員を守る」と明確に伝える

最初に必要なのは、経営者の姿勢です。

「不当な要求には、会社として対応する」

「困ったときは、一人で抱え込まなくていい」

こうした方針を社員に伝えることが大切です。

単に掲示するだけでなく、普段の朝礼や会議でも繰り返し伝えていきましょう。

2.相談できる仕組みをつくる

誰に相談すればよいのか。

どの段階で上司に引き継ぐのか。

悪質な場合は、誰が判断するのか。

これらを明確にします。

相談窓口は社内に設けることも、外部の専門機関を活用することもできます。

大切なのは、相談先があるだけでなく、安心して相談できることです。

3.対応内容を記録する

トラブルが発生したときには、日時、要求内容、対応経緯などを記録します。

必要に応じて録音なども検討しますが、個人情報の適切な取り扱いが必要です。

記録を残すことで、感情や記憶だけに頼らず、事実に基づいて判断できるようになります。

4.問題が起きた社員を支える

対応が終われば、それで解決でしょうか。

私は、そうではないと思います。

強い言葉を浴びせられた社員が、その後どのような気持ちで働いているのか。

仕事に不安を感じていないか。

同じような場面に遭遇することを恐れていないか。

こうした点に目を向けることも必要です。

場合によっては、担当者の変更や複数人による対応、心身のケアを検討します。

5.悪質な要求への対応を決めておく

執拗な要求、脅迫、暴力などに対して、現場が対応を続けなければならないわけではありません。

事案に応じて、警告、対応中止、警察や弁護士との連携などを検討する方針を定めておきます。

あらかじめ対応基準を共有することで、社員や管理職が判断に迷いにくくなります。

なお、これらの取り組みに加えて、相談者のプライバシー保護や、相談を理由とした不利益な取り扱いを防ぐ措置なども必要です。

製造業こそ、考えてほしいことがあります

製造業では、営業担当者と取引先との関係が長く続くことも珍しくありません。

何年、何十年と取引してきたお客様。

その関係を大切にしたいからこそ、無理な要求にも応じてしまうことがあります。

例えば、次のような場面を考えてみてください。

納期について説明した営業担当者に、取引先から夜間も繰り返し電話が入り、契約外の無償対応まで強く迫られる。

営業担当者は、取引を失いたくないために、一人で何とかしようとする。

しかし、本当にそれでよいのでしょうか。

納期の説明に不足があったのなら、会社として改善する。

一方で、不当な要求があるのなら、上司が一緒に対応する。

必要であれば、連絡方法や契約範囲も明確にする。

このように整理することで、社員の負担を減らしながら、取引先との適切な関係を維持しやすくなります。

※これは説明のための想定例です。

大切なのは、営業担当者の我慢だけに頼らないことです。

社員個人の頑張りを、会社として支える仕組みに変えていく。

それが、これからの中小企業の経営に必要な視点だと考えています。

カスハラ対策は「90日間の職場改善」で考える

カスハラ対策は、規程やマニュアルを作っただけでは十分ではありません。

現場で実際に使われてこそ意味があります。

例えば、90日間を次の3段階に分けて考えることができます。

最初の30日:現状を知る

社員や管理職から話を聞き、困っていることを整理します。

どのような要求が多いのか。

対応に何時間かかっているのか。

誰に負担が集中しているのか。

まず、現状を見える化します。

次の30日:仕組みを整える

経営者の方針を明確にします。

相談窓口や対応基準を整えます。

社員や管理職が、実際の場面を想定して対応方法を確認します。

最後の30日:改善を定着させる

取り組みが機能しているかを確認します。

対応時間は変わったか。

同じトラブルが繰り返されていないか。

社員は安心して相談できているか。

こうした変化を振り返り、改善を続けます。

特に重要なのは、相談件数の減少だけを成果と考えないことです。

社員が安心して相談できるようになると、これまで表に出てこなかった問題が見えるようになることもあります。

本当の成果は、社員が安心して働けることと、組織が適切に問題へ対応できるようになることです。

よくある質問

Q.小さな会社でもカスハラ対策は必要ですか?

はい。2026年10月1日から、労働者を雇用するすべての事業主が対象となっています。

Q.厳しいクレームは、すべてカスハラになりますか?

いいえ。正当な苦情や改善要求は、それだけでカスハラになるわけではありません。要求内容、言動の態様、経緯、業務への影響などを総合的に判断する必要があります。

Q.マニュアルがあれば十分でしょうか?

マニュアルだけでは十分とはいえません。経営方針の周知、相談体制、事後対応、悪質な事案への対処、プライバシー保護など、実際に機能する体制が必要です。

社員を守る会社が、これからの時代に強くなる

私は、社員を大切にすることと、利益を生み出すことは、対立するものではないと考えています。

むしろ、社員が安心して働けること。

困ったときに仲間や上司に相談できること。

会社が社員を守ってくれると感じられること。

こうした職場環境があってこそ、一人ひとりが本来の力を発揮しやすくなるのではないでしょうか。

ケイネクシアは、兵庫県西宮市を拠点に、阪神間の中小企業、とくに製造業の現場に寄り添いながら、人と組織の「予防」と「改善」を支える経営支援に取り組んでいます。

私たちが大切にしているのは、問題が起きてから対応するだけでなく、問題を深刻化させない職場をつくることです。

カスハラ対策も、その一つです。

制度に対応するためだけの取り組みではなく、社員と会社の未来を守る取り組みにしていきたい。

社員を守ることは、会社を強くすること。

その第一歩は、現場で働く人の声に、しっかり耳を傾けることから始まります。


参考資料

「社員の定着が気になる」「相談先を整えたい」「ストレスチェックの結果を活かしたい」。何から始めるか決まっていなくても、まずは現在の状況をお聞かせください。

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